いつ頃からか、「私は影!」「何者かの陰!」
「何かとしての陰翳(カゲ)!」と言う思いから、
離れられなくなっていた。
錯覚と思いたいが、日を追うごとに益々、
強くなっていった、は虚偽申し立て、で、
あまねく10年かけて、その思い強くなってきていた。
きっかけは、数珠黒(ずずぐろ)い板塀に沿って歩いていた時、
塀越しで姿が見えない、金木犀の蜜柑色の花が、
歯に衣を着せぬ善い匂いを、わたくしに被せてきた時、
何気に足元を見たら、「影が無い!」
私のカゲが……塀は、くっきりと、
路面にその影を落としている。
疑念した眼(まなこ)の薄氷を、塀の向こうからやってきた、
秋麗(しゅうれい)の風がぬぐい去っていった時、こつぜんと、
影は戻って来ていたが、「影が無い!」のではなく、
ワタシこそが「影であった!」ことを、
思い知らされた瞬間だった。
私のその奥にワタシがいて、さらに奥に、
私のワタシの<わたくし!>がいるようなのだ。
この記憶は百年〜万年〜億年〜
前の記憶のようなのだ、が「わたくしは、何?」
と分からなくとも、とまれ疑念は解けた。
肉体的な私は、偽装されたワタシと同じでなく、
<わたくし!>と言う、イノチ‐魂(ミタマ)を乗せる、
表現体としての<舟>であった。
ワタシを、私自身としていた時は終焉した。
偽装のワタシは<わたくし>から剥(は)がれて、
二度と振り返らず、慌てて、旅立って行った、
自身の魂(ミタマ)を探しに、どこぞかに……。
「人間は神になるために生まれた来た」
「人間はその多くが、かつて神であった」と、
雪花(せっか)を咲かせた金木犀を、渡る風(神)が言った。
では、「私の(ワタシの)わたくしは、だれ神?」