『メキシコ大旅行』(「辺境・近境」村上春樹著-資料として引用)No.2

 インディオたちの味方として立ち上がったのは、バルトロメ・デ・ラス・カサスを中心とするキリスト教の宣教師たちだった。彼らはインディオたちを保護し、スペイン本国に彼らの置かれている窮状を訴え、なんとか奴隷制度の廃止を実現するまでにこぎつけた。これが一五五〇年のことである。サン・クリストバル・デ・ラス・カサス(長い名前なのでラス・カサスと省略して呼ばれることが多い)は彼の名前に因(ちな)んでつけられた。

 もっとも奴隷制度こそなくなったものの、インディオたちの置かれた実質的な隷属状態にはさしたる変化はなく、彼らは定期的に反乱を起こすことになった。一七一ニ年にはツェルタル族のひとりの少女が夢を見た。夢の中にマリア様が出てきて、スペイン人に対して武器を手に取って立ち上がれば、インディオたちに救済がもたらされることになるだろうというお告げをした。