『五感 機械幻想』 No.3

 

☆「嗅覚(Smell)〕を閉じる」無嗅覚(きゅうかく)にて 

シルックな雪が沈黙して、降り継いでいる。

鼻腔を両指で押さえて、嗅覚を閉じる……

今日美きょうびの雪は、無機質な〈無〉の匂いのする。

世間の喧騒けんそうを、ひと知れず飲みこんで、

重ね着してゆく雪……いつになく、強く家が軋きしんでいる。

山里の庭のまわるい満天星(どうだん)や、蒲鉾(かまぼこ)型のつつじの生垣、

神流川(かんながわ)が色々に造形した、青緑色の縞模様の庭石、

三波石(さんばせき)たちも、不条理な雪の抱擁を受けている。

両手の平に盛った雪の綿菓子に、閉じた鼻腔を、

圧し当ててできた鼻型の空間には、戦後グローバルに、

高度に飛躍‐発展を遂げた科学文明が、

造形した機械都市の、無機物の砂漠(すな)の臭いのする。