『沈黙 風立ちぬ』No.1

『沈黙 風立ちぬ』  中嶋 稔

一陣の風が吹いてきた「風立ちぬ!」

汗ばんだ頬を、優しく撫(な)でて行くように。

閉じることに慣れた、鼻腔(びくう)を少し開ければ、

ほんのりと甘酸っぱく、すえた匂いがするる、

それと知られぬように、匂いの元を尋ねると、

過去からではなく、未来からやって来たかの、

疲労困憊(こんぱい)した風神の吐息だったか、それは。

カムフラージュされた、甘酢の腐れ、

生命の新たな働きが混じっているかに。