『マヤアステカの神話』<音楽の起源> No.1
アイリーン・ニコルソン著/松田幸雄訳(引用)
テスカトリポカはケツァルコワトルに、万物の生命のもとである太陽の家まで旅をするように、おりいって頼んだ。そしてケツァルコワトルに、浜辺に着いたら、かならずサトウキビとホラガイ、水の女、水の怪物というテスカトリポカの三人の従者の援助を得るようにと、特別の指示を与えた。ケツァルコワトルは、彼が太陽へ渡っていけるように橋を造るため、三人に体を組むように命令した。太陽に着いたら、彼は音楽士たちを見つけ、人間の魂を喜ばせるために連れて帰ることになっていた。
ケツァルコワトルは言われたとおりにしたが、太陽は彼が近づいて来るのを見ると、音楽士たちに一言も口をきいてはならないと注意した。口を開いた者は、誰でも風の神とともに地上に帰らなければならないことになっていた。白、赤、黄、緑の服を着た音楽士たちは、しゃべる誘惑に抵抗したが、ついに、彼らの一人が憐れに思って声を出した。彼とケツァルコワトルは地上に降り、人類に音楽の楽しみを与えることができた。
十六世紀のナワの手書き本には、この出来事を書いた詩がある。
天国の神にして天国の四方の神―
テスカトリポカは
この世に来て悲嘆にくれた。
四方の奥底より叫んだ、
「来たれ、おう、風よ!
来たれ、おう、風よ!
来たれ、おう、風よ!
来たれ、おう、風よ!」
大地の悲しい胸に散っていた怒りっぽい風は
造化の万物よりもなお高く吹き起こり、
大海の水と
木々のたてがみを打ち叩きながら、
天国の神の足元にやって来た。
そこに黒い翼を休め、
無限の悲しみをかたえに置いた。
そしてテスカトリポカは語った、
「風よ、沈黙のために大地は病んだ。
われらは光、色、果実をもつが、音楽をもたぬから、
造化のすべてに音楽を授けねばならぬ。