『マヤアステカの神話』<音楽の起源>
アイリーン・ニコルソン著/松田幸雄訳(引用)
歓びの羽ばたきが地にくだり、
太陽の音楽士たちが四方に散らばるや、
風はぶつぶつ言わずに歌を歌い、
谷と森と海を抱いた。
こうして音楽は大地の駒に生まれた。
こうしてすべてのものは歌うことを学んだ。
目覚める暁よ、
夢見る男よ、
待ちいる母よ、
流れる水と飛びゆく鳥よ。
これよりのち生きることはすべて音楽となった。
この神話をとおして、またもわれわれは、物質すなわち実在の世界と精神すなわち現象の世界とがつねに密接に絡み合っていなければならないということに気づく。ときには現象の世界が実在の世界を支配することがあり、そのためテスカトリポカがケツァルコワトルにたいして命令を与える権利を保有することさえあるようである。ここには実際に縦の序列といえるものはなく、実在と現象が奇蹟的な精神の肉化を成すために力と音楽を交換する互助的な自立社会、または信仰としての平和共存があるだけである。