新訂詩『樹林 自然幻想』No.2

 

「見ざる、言わざる、聞かざる」

いまは昔、江戸時代初期の彫刻職人〈左甚五郎(ひだりじんごろう)〉が、

徳川家康公神(カミ)ご縁の廟所(びょうしょ)の日光東照宮、

黄金色に輝く陽明門手前の、神馬の神厩舎かみきゅうしゃを守るかに、

壁の上長押(うえなげし〈❊〉)に、視覚・聴覚・口覚(こうかく)(言葉)を、

両手で圧えてる、茶色背と白腹の小さな「三猿(さんえん)」彫刻のあり。

風雪四百年を凌いで、その色塗り変えて現今(いま)にいる。

よその彫刻には鼻圧(おさ)えの猿、股間圧えの猿もいるらし。

江戸時代の士農工商‐絶対的封建体制の不平等に、

不満‐口にするな、イノチが危うい!

「見るな、言うな、聞くな」

日の本の言葉は裏〜表、意味・働きは一つではない。

機械科学‐量子コンピューター隆盛の現代いまに、知らぬ間に

〈AI(人工頭脳)〉化が、機械だけでなく人間にも、

脳機能・人間性の乗っ取りが進み、コミュニケーション能力が落ちた、

サイボーグ人間が、ぐるり周辺に蔓延して来ていないか。

サイボーグ化し、成りすましされた脳‐五感で、

「見させまい、聞かせまい、話させまい」訓練して、

イノチ本体の〈魂(ミタマ)〉の自然の働き、

神眼(がん)・神口く・神耳じの働きをめざめさせて、

ハレやかな覚醒なりますように。

〈❊〉註=和室や建物のかべの柱と柱の間に水平方向に繋ぐ板部材で、東照宮ではそこに彫刻を施した。