『洞爺湖‐新説話 風の栖(すみか)』 No.1

中嶋 稔

ことの始めに 住処(すみか)があった

植物・動物・人々にも

世界中至る所 隈なく

吹き渡っている風の栖(すみか)は

 

「洞爺湖有珠(ウス)山ジオパーク」の、錆びない看板が、

四季折々の北の国の、湖の風景に染まることなく、

真っ直ぐに立つ、ことを生業(なりわい)としていた。

近間の緑の公園には、人間の巨大な顔の彫刻が、

重力に抗して、緑地に斜めに植え込まれている。

有珠山山頂に登ると、正面に洞爺湖の中島(なかのしま)が、

右方には昭和新山の噴火時のままの、禿山が見える。

ウスとシンザンの活火山は、穏やかに火の胎児を育てていた。

冷却し始めた秋風が、澄んだ藍緑の湖を渡り、

中島の蝦夷(エゾ)松の樹林に、吹き込んで行く。

緩やかな山道は、樹木伐採のチップスとエゾ松の枯葉が、

ふかふか絨毯してる……その下の底には、底いには、

何ごとか隠し事しているかに、足元が少しくおぼつかない。