中島 稔
秋終わりに冬登山の装備もせず、トレッキング姿で、
ロープウェイの地蔵山頂駅を降り、地蔵山から、
熊野岳に向かう山岳道を歩いて行く……と、冷たい風と共に、
晴れていた空からこつぜんと雪が降りて来た。
雪の舞い舞い遊戯を楽しむ間も無く、次第に横殴りの風雪となり、
山稜の両側が切り立った<馬の背>の真中に立っていた。
下から噴き上げる吹雪で視界が狭められ、
急峻な谷底が見えない! 少しく怖れを憶えつつも、
戻る選択肢はなく、眼に見えない何者かに、
先導されているかに先に進み、何度か身体ごと、
吹き飛ばされそうになり、それでも前に押し進んで行った。
あまりの寒さに両腕を上下に振り上げ、
体温を上げようとした右手の向こうに、少し薄くなった吹雪の先に、
石造の建物が見えてきた……メキシコのミニ・ピラミッドを
想起する避難小屋が雪嵐に、どこ吹く風と建っている。