散文詩『蔵王連峰の夢想よ氷雪を消さずあれ』No.2

「扉を開けたらすぐに閉めること!」の細長い表示板は、風に煽(あおら)れて、

ログ風の板扉に音を立てて当り、掛け紐が切れそうになっている。

雪風と一緒に室(むろ)に入ると、円筒形のストーブが真ん中に置いてあり、

火は燃えていずとも石室は暖かかった。

それをコの字型に囲むように、板敷がベッド代わりにも成っていて、

奥は二段ベッド様に設(しつら)えてある。

先程までここに誰かが居たような空気感もあった。

下のベッドの真ん中に、誰に宛てたモノか、

「熊野岳の山頂にいる」のメモ用紙が置いてあった。

異常な寒さの中から急に、暖かい空間に入った為か、

板敷きに腰掛けたまま、半覚半睡(はんかくはんすい)で軽い金縛状態になっていた。