『通りゃんせ 通りやんせ』No.6

 

うらぶれて日々うとく、都を遠く拝跪(はいき)しながら、

冤罪(えんざい)の思いかなえられず……北に流れ行く、

暖流の玄界灘に、時に北からの激寒の雪風、

吹き荒れる3月26日に、ヒトの息を止め‐置く。

死して京都の地への、怨霊(おんりょう)・荒ぶる鬼神となるも、

「心だに 誠の道にかないなば

祈らずとても 神やまもらん」……やがて呪い・

怨念を解いて、博多・京〜全国の平穏・学問の神となり、

機械科学文明‐全盛の時代に到りて、自然を破壊し、

征服することが、その本分であるかのような錯誤色の、

生命・宇宙せかいの歪みを変革する〈仕組み〉浄化に、

目覚める人々の集う、〈北野天満宮〉となるるか。

 

✻補遺(Addendum/アデンデューム)

「通りゃんせ 通しゃんせ

ここはどこの 細通じゃ」

『通りゃんせ 通りやんせ』No.5

 

争いがお嫌いな、学問・受験や知恵の神に祭られて、

天神さんとなった菅原道真(みちざね)公—律令国家の平安時代、

天皇(トップ)を補佐するお役目の、従二位の右大臣に、

従一位は政治に長(たけた)左大臣、年下の藤原時平に。

それを取り巻く貴族達の仕掛けた、〈昌泰(しょうたい)の変!〉の、

政争の謀略(ぼうりゃく)にはめられ、あえなく失脚・左遷(させん)されて、

京の都〜落ちして行く……家族・配下はバラバラに、

多くは北の奥羽の地に遠流(おんる)され、道真公はお一人で、

人の尊厳・財すべて剥奪され、着の身〜着のままに、

はるか遠く南の太宰府(へきち)に、とぼとぼと流刑さるる。

それは世界を変革する仕組み〈註1〉を負った人間の、

「帰りはこわい」〜非道・過酷な宿命なの……

 

✻「こわいながらも

通りゃんせ 通りゃんせ」

『通りゃんせ 通りやんせ』 No.4

 

わらべ遊びは、みんな皆、

われ先に鬼となりたい、鬼あそび、

鬼となって、アーチの鳥居を作り、

神童(カミ)となる……鬼さん、こちら、

手の鳴る方に、鳥居・アーチの向こうには、

菅原(すがわら)天満宮の、天満天神の居られる神社(かみやしろ)。

東風(こち)〜吹かば、匂い立つ、梅が香(か)の寂滅(じゃくめつ)のなか、

変わらぬこの世の喧騒(けんそう)〜権力・支配の争い続く世に、

無心‐瞠目(どうもく)し、鎮座して居らるるか天満天神。

 

✻「お札を納めに まいります

行きはよいよい 帰りはこわい」

『通りゃんせ 通りやんせ』 No.3

 

天神さまのわらべ歌を、声高らかに、

歌いながら……最後のフレーズ、

「通りゃんせ 通りゃんせ」になったなら、

ゆっくりアーチが降りてきて、

曲の終わりに、その下にいた童と、

後ろの子供のふたりが、得意げな、

鬼(オニ)さんになーる……夕焼け・小焼け。

 

✻「御用のないもの通しゃせぬ

この子の七つのお祝いに」

『通りゃんせ 通りやんせ』 No.2

 

わらべ歌、あそび歌、忘れ去られた、

童(わらわ)遊びの「通りゃんせ」〜する者、

寄っといで、この指とぉーまれ、

じゃんけんポンよ、あいこでしょ、

負けたら鬼よ……二人で鬼さん、

少しく離れて向き合った、鬼さん同志が、

両手を組み合わせて、時に高く、

背伸びして、アーチを作る。

その下を、たてに並んだわらべ達、

順々に少しく、前こごみなどして、

アーチの下をくぐり抜けて行く。

✻「天神さまの 細道じゃ

ちっと通して下くだしゃんせ」

『通りゃんせ 通りやんせ』 No.1

『通りゃんせ 通りやんせ』

——天満神(てんまんしん)のお通りじゃ

中島 稔

 

「童」‐わらべ・ワラワは、里に立つと書く、

「里」には田があり土があり、古里があり、

おかっぱ頭の、鼻垂れ小僧が遊んでた。

童(妾/ワラワ)は辛く苦しい女〜「奴隷」を意味してる。

目の上に刺青(いれずみ)され、重い袋を背負わされた奴婢(ぬひ)は、

愚かな童(こども)に似ているる……PCゲームでは、

女王・王女や、身分の高い女性が「わらわ」かな。

 

✻「通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細通じゃ」

詩『いま いま いま』  No.2

 

いまいま いまを

かこと みらいが

こうみょうに

げんわくして

かどわかし するる

のろい じゅばくを

ときはなつ ために

 

いま いま いま

いまもおきた

いまとおきた

いまにおきた

いまをおきた

いまがおきた

いま おきた

詩『いま いま いま』  No.1

 

いま おきた

いまがおきた

いまをおきた

いまにおきた

いま おきた

いまとおきた

いまもおきた

 

いま おきた

いま いま いま

お き た い ま

ゆこう いまの

しゅん かんに

いつでもいま に

いま おきた

『五感 機械幻想』 No.3

 

☆「嗅覚(Smell)〕を閉じる」無嗅覚(きゅうかく)にて 

シルックな雪が沈黙して、降り継いでいる。

鼻腔を両指で押さえて、嗅覚を閉じる……

今日美きょうびの雪は、無機質な〈無〉の匂いのする。

世間の喧騒けんそうを、ひと知れず飲みこんで、

重ね着してゆく雪……いつになく、強く家が軋きしんでいる。

山里の庭のまわるい満天星(どうだん)や、蒲鉾(かまぼこ)型のつつじの生垣、

神流川(かんながわ)が色々に造形した、青緑色の縞模様の庭石、

三波石(さんばせき)たちも、不条理な雪の抱擁を受けている。

両手の平に盛った雪の綿菓子に、閉じた鼻腔を、

圧し当ててできた鼻型の空間には、戦後グローバルに、

高度に飛躍‐発展を遂げた科学文明が、

造形した機械都市の、無機物の砂漠(すな)の臭いのする。