☆「嗅覚(Smell)〕を閉じる」無嗅覚(きゅうかく)にて〜
シルックな雪が沈黙して、降り継いでいる。
鼻腔を両指で押さえて、嗅覚を閉じる……
今日美きょうびの雪は、無機質な〈無〉の匂いのする。
世間の喧騒けんそうを、ひと知れず飲みこんで、
重ね着してゆく雪……いつになく、強く家が軋きしんでいる。
山里の庭のまわるい満天星(どうだん)や、蒲鉾(かまぼこ)型のつつじの生垣、
神流川(かんながわ)が色々に造形した、青緑色の縞模様の庭石、
三波石(さんばせき)たちも、不条理な雪の抱擁を受けている。
両手の平に盛った雪の綿菓子に、閉じた鼻腔を、
圧し当ててできた鼻型の空間には、戦後グローバルに、
高度に飛躍‐発展を遂げた科学文明が、
造形した機械都市の、無機物の砂漠(すな)の臭いのする。